「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第86話

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帝国との会見編
<失敗の笑み>


 バハルス帝国の衛星都市イーノックカウ、その中央付近にある貴族や上流階級が住まう区画を一台の馬車が走っている。
 馬車が目指す先はこの都市の迎賓館。
 そこは他から訪れていてこの都市に館を持っていない貴族や王族が、他の貴族や大商人等を持て成したり大事な会談をする必要が出来た時に使用する為、建てられた建物なんだって。

 その迎賓館へと向かう馬車の中には私とシャイナ、執事としてギャリソン、そしてメイドとしてヨウコが乗っている。
 そう、この4人がロクシーと言うこの国の皇帝の愛妾との会見に挑むメンバーだ。

 まぁ、挑むといっても別に戦うわけじゃないから私もシャイナもドレス姿だし、ギャリソンもヨウコも武器は帯びていない。
 そういう心構えだと言うだけね。

 「アルフィン姫様、まもなく到着します」

 「ありがとう」

 御者を勤めているリュハネンさんの言葉に、いよいよだなと気合を入れなおす。
 別に地位が高い人と会うのはこれが初めてと言う訳じゃないし、むしろリアルではデザイン会社とは言え一応社長と言う立場にいたから別に珍しい事ではなかったけど、魔法と言うものがあり、タレントなんていう不思議能力を持っている可能性がある上流階級の人と会うのはまた別の話だ。

 必要以上に恐れるべきではないだろうけど、舐めてかかるわけにもいかないのよね。

 し過ぎない程度に緊張感を持って事に当たれるように、そして何があっても冷静に対処できるように心を落ち着かせる。
 そうやって心の準備を整え終えた頃、馬車が静かに停車した。
 どうやら迎賓館に到着したようだ。

 普段ならここでメイドのヨウコが外に出て私たちが降りる準備を始めるのだけど、今回は私たちは招かれた側なのでその準備は出迎える方がやってくれるだろう。
 だから、私たちはゆったりとした気分で準備が整うまで静かに待っていた。
 すると馬車の外でなにやら作業をしているような音がして、それからゆっくりと馬車の扉が開かれた。

 「ようこそいらっしゃいました、都市国家イングウェンザー女王、アルフィン様」

 そう言って馬車の扉の向こうから出迎えてくれたのは鎧に身を包んだ女性。
 比較的美系が多いこの世界の中でも非常に整ったと表現してもいい顔立ちで深い青の瞳を持つ女性騎士だ。
 だけどその顔は人形のように無表情で、その上なぜか長い金色の髪で顔の右半分を隠していた。

 綺麗な顔なのにもったいないなぁ、なんて私が考えている内にまずヨウコが馬車から降り、続いてギャリソンが降りてそのまま彼がシャイナの手を取り、エスコートしながら馬車から降ろした。

 「アルフィン姫様、お手をどうぞ」

 「ありがとう、リュハネンさん」

 そして最後に私がリュハネンさんのエスコートで馬車から降りると、迎賓館の門の横に控えていた執事服を着た男の人がすばやく扉を閉め、御者台について馬車を移動させて行った。

 「ロクシー様がお待ちです。どうぞこちらへ」

 女性騎士に導かれて私たちは迎賓館の門を潜る。

 へぇ。

 イングウェンザー城ほどではないけど、かなり手入れが行き届いている庭と、豪華なつくりの建物に私はちょっとだけ感心する。
 先日訪れたこの都市の領主の館もカロッサさんの館も立派ではあったけど、それほど豪華なつくりではなかった。
 だけど、ここは迎賓館と言うだけあってかなり豪奢なつくりで、ところどころ金色の像や石の彫刻で飾られた宮殿のような建物だったからね。

 貴族の館がそれ程派手じゃなかったから、この世界は建物を飾る文化がないのかなぁなんて思っていたけど、これを見るとそうでもないみたいだね。
 他国の人を招く場所はそれ相応の豪華さを兼ね備えているのだろう。

 うん、これは内装も期待できそうね。

 そう思いながら門戸を潜ったんだ。
 でもねぇ、残念ながら迎賓館の中はそれ程でもなかったのよ。

 あっいや、豪華ではあるのよ。
 床や壁は大理石で出来ていたし、敷かれている絨毯は毛足も長くふかふかで、壁に掛けられた絵や調度品もそれなりの物がそろえられているもの。
 でもなぁ、私は外観から想像するに、てっきりクリスタルで作られた大きくて派手なシャンデリアや金や銀の細工が施された壁飾り、それに金の燭台とかが壁に並んでいるのを期待していたのよ。 
 でもね、中央エントランスなのに吹き抜けの天井は大理石のまま真っ白で、飾り窓一つないし、シャンデリアらしきものもぶら下がっていない。
 壁も何の変哲も無い造りで飾り布さえないのよ。
 思ったより質素でちょっとがっかり。

 でもまぁ、迎賓館と言っても帝都と違って衛星都市のものだし、仕方ないよね。

 そんなことを考えながら進むうち、私たちはある立派な扉の前に案内された。
 どうやらここが目的の場所らしいね。

 コンコンコンコン

 「都市国家イングウェンザーの方々が、到着なさいました」

 女性騎士さんがノックをして部屋の中に声を掛けると音もなく扉が開き、中からメイドさんが出てきた。
 そしてこちらへ体の向きを変えて深々と一礼。

 「都市国家イングウェンザー女王、アルフィン様。ようこそ御出で下さいました。中でロクシー様がお待ちです、どうぞこちらへ」

 私たちはそのメイドさんに促されて部屋の中へ。
 私、シャイナ、ギャリソン、ヨウコ、リュハネンさんと続き、最後に女性騎士さんが部屋に入った所で、扉の横に居たもう一人のメイドさんの手によって、扉が閉じられた。

 そして私たちが通されたその部屋の中には、質素なドレスに身を包んだ女性が一人。
 こちらに背を向けているその人は、身分の高い者特有の気品のような物があまり感じられず、その服装から考えてこの部屋とは似つかわしくない女性だった。

 はて、この方はいったい? それにロクシー様はどこに?

 私が頭にはてなマークを浮かべていると、女性騎士はその女性の方へと進み、その向こうに立った。
 そして部屋の中に居た女性はこちらへと向き直る。
 静かな笑みを浮かべて。

 「ようこそいらっしゃいました、アルフィン女王陛下。お初にお目にかかります。わたくしがバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの愛妾、ロクシーでございます」

 振り返ったその女性、ロクシーの顔を見て私は満面の笑みを浮かべた。
 いや、浮かべてしまった。

 「ごきげんよう、ロクシー様。都市国家イングウェンザーの支配者、アルフィンと申します。以後お見知りおきを」

 私は心の中で舌打ちをしながらも、笑顔を崩さずスカートの裾をつまみ、少しだけ腰を落として挨拶を返す。

 「そしてこちらが我が都市国家イングウェンザー6貴族の一人、シャイナです。身分としては私のほうが上と言う事になってはいますが、6貴族はほぼ同格ですので、そのように覚えて置いていただけるとありがたいです」

 「シャイナです。本日は御会いできて大変光栄に思っていますわ」

 初手を誤った。
 あの眼を見て、つい昔の癖が出てしまったのよ。

 タレント? とんでもない! 私はあの目をよく知っている。
 タレントなんていうトンでも能力の方がどれだけましだった事だろう。
 あれは巨大企業の人事や営業の、それもかなり上役につく者の眼、人の真価を見抜くことに特化した化け物たちと同じ眼だ。

 何の事はない、私はリアルで渡り合ってきた企業担当者たちとの経験から、あの眼を見た瞬間につい”営業スマイル"を浮かべてしまったという訳なのよ。

 何をやってるんだ、私は。
 本来なら私は静かに微笑み、ゆったりと挨拶すべきだったのに。
 これでは相手にこちらはあなたを見て警戒しましたと教えているような物じゃないか。

 「あとの二人は我が家の筆頭執事と私の専属メイドです」

 私の言葉に頭を下げるギャリソンとヨウコを横目で見ながら私はこの後の事を考える。
 さて、どうやって挽回したものか。
 まだ修正不能なほどの失敗をしたわけじゃないから、しれっとした顔で話を進めるべきかなぁ? うん、実際慌てた所で泥沼に落ちて行くだけだし、私は何の失敗もしてませんよって顔で進めるべきかもね。

 しかしまるんちゃん、ナイス判断! よくぞ私を呼んでくれたわ。
 まるんだけだったらいい様に言いくるめられて、うちの秘密、丸裸にされていたかもしれないもの。
 こういう手合いはかなり気を張って相手しないとね。
 リアルでは気付けばとんでもない契約を交わすことになってしまっていたなんて話、よく聞いたもの。

 「立ち話もなんでしょう。席について御話しませんか?」

 「そうですね、それではお言葉に甘えて」

 私は満面の笑みを浮かべたまま、メイドさんの用意してくれた席に着く。
 すると、他のメイドさんたちがお茶の準備を始めたのでそれが全て終わるまで待ったあと、初めて満面の笑みをといて静かに微笑みながら再度挨拶をする。

 「ロクシー様、本日はお誘いくださってありがとうございます」

 「いえ、私としてはこの都市に滞在されているというまるん様と御会いしたいと考えていたのですが、まさか女王陛下自ら御越しになってくださるとは。こちらこそ、お礼申し上げます」

 とりあえず社交辞令の挨拶はここまで。
 ここからが本題だろう。

 といってもこの人の考えはこちらがどのような集団なのか? バハルス帝国にとって敵か味方か? 益があるのか、それとも害をなすのか? それを見極めようって事なんだろうけどね。

 こちらとしてはそれをのらりくらりとかわして、特に大きな約束や言質を取られることもなく、重要な情報を渡さなければ勝ちといった所かな?


あとがきのような、言い訳のようなもの



 すみません、物凄く短いです。
 いつもの半分、3800文字弱しかありません。
 と言うのも、本当は土曜日に書き上げて、それからドラクエ11を買いに行こうと思っていたのですが、今回のラストまで書いた所で思ってしまったのです。

 「これって一応キリ、ついたよね?」

 すみません、誘惑に勝てませんでした。
 そんな訳でこんな体たらくです。


 さて、アルフィンは迎賓館の内装を期待はずれと感じていますが、この世界的に考えたらかなり豪華です。
 そもそもユグドラシル基準のイングウェンザー城をいつも見ているアルフィンの感覚では例え帝城に行ったとしても期待はずれだと感じる事でしょう。

 そもそもの文化レベルが違うのですからね。


 来週なのですが、土日用事がありまして平日に書かないといけません。
 しかし平日に書ける量はたかが知れています。
 なので普通は前の週の土日に半分くらいは書いておくのですが今の私には無理でした。
 誘惑に負けている状態ですからね。

 なので来週も短いと思います。
 ただ、休載はしないので許してやってください。


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